不用品への驚きと期待

債券や株式や為替に日々携わりながら、彼らはなぜ不動産で資産を形成しようとするのだろうか。 理由のひとつは、金融業界に勤務する者の投資が、きびしく規制されていることにある。
債券や株を買うにしても、会社に申請をしなければならない。 また、許可されて買ったとしても、短期間に売り抜けることは出来ない。
会社によって差があるが、ある一定期間保有することが条件づけられる。 いうまでもなく、これはインサイダー取引など金融業界内の不適切な投資を防ぐためである。
何しろ私たちは、朝から晩まで金融市場を見ている。 投資に関する情報を扱うのが商売だから、まだ一般の人々に公開されていない極秘情報に接する機会もある。
しかし、そうした立場を利用して、自分の資金で投資活動をすれば、それはまさしくインサイダー取引だ。 きびしく罰せられ、悪質な場合は逮捕される。
私が以前勤務していた欧州系の銀行では、社員全員に「保有している株の明細書」の提出を義務づけていた。 私はその書式を見て唖然とした。

社員個人の保有株だけでなく、家族から親戚の保有株に至るまで、細かい報告を求めていたからである。 これは、つまり社員が家族や親兄弟の金融マンには、シティの勤務先に近い一戸建てや高級フラット(日本でいうマンション)に住んでいる人が多いことはすでに述べた。
そして、私は、通勤の便、通勤費の節約、家族との交流の時間、投資対象としての妙味などの理由をあげた。 彼らは、自分の生活を大事にすると同時に、何よりの資本である自分の健康にも配慮しながら、投資の果実も狙っている。
シティの金融マンは実にしっかりしている。 金融マンの年収は他の業界よりも高い。
この点からも、まとまった資金が動かせる不動産投資は、彼らにうってつけなのである。 ここで、なぜこの数年、イギリスの不動産価格が上昇したか、説明しよう。
ある統計によれば、イギリスの住宅の平均価格は、九六年から二○○三年の間に、約二・三倍になったという。 私の友人がロンドン橋近くで九一年に二十八万ポンド(五千三百二十万円)で買った一戸建ては、九名義を隠れ蓑に使って不正な取引をしていないか、を調べるためである。
ことほどさように金融マンの証券投資は監視されている。 だから、「ここでノキアは買いだ」とか、「電力株の価格は今が底だ」とか思っても、なかなか手が出せない。
申請して会社の許可を得れば買えないことはないが、それには長期保有の条件がつけられるので、自由な売買が出来ないのだ。

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